NO団体名主な企画内容
29 特定非営利活動法人 京田辺シュタイナー学校(京都府) 「修学旅行「森から海まで水と石の旅」」
和歌山県古座川の源流から海までの旅の中で、鉱物や環境についての理解を高める自然体験活動。ミツバチの生態観察、カヌー体験、シュノーケーリング、キャンプなども体験もおこなう。

研修旅行「森から海まで水と石の旅」 [9/2-5]

日  時:
場  所:
参加者:
 
 
 
 
 
2008年9月2日(火)〜5日(金)
和歌山県 古座川
京田辺シュタイナー学校6年生27名(男子14名、女子13名)
京田辺シュタイナー学校教員3名
古座川アドベンチャー倶楽部 上田博久さん他4名
北海道大学和歌山研究林 林長・野田真人さん他2名
串本海中公園インストラクター5名、古座川流域の農業家1名
和歌山県ふるさと定住センター職員2名

当校では、一般の小学校6年生で行われる「修学旅行」がなく
それに代わって3泊4日と長い時間をかけ、自然体験を中心とした「研修旅行」を行う。
今回は、川の上流から中流、下流を経て海までを
散策・カヌー・シュノーケリングなどでありのままの自然を体験すること、
学校で学ぶ鉱物学・地質学・生物学・地理などの理解を机上だけでなく体験を通して深めていくこと、
また人間として成長することが今回の目的である。

 <9月2日・晴れ時々曇 移動日・中流域で飛び込み>
初日・滝の拝1初日・滝の拝2

07:40  バスで京田辺出発、途中、志原海岸で昼食
13:30  古座川中流域にある民宿「ぼたん荘」到着
14:00  中流域のやや上流にある「滝の拝」で「飛び込みチャレンジ」
19:00  夕食
20:00  入浴、夜の河原を自由探索
21:00  ミーティング
22:00  就寝

心配していた天気もなんとか回復し、よく晴れたすがすがしい朝である。
子どもたちにとっては大冒険になるであろう研修旅行がいよいよ始まる。
チャーターした観光バスで途中休憩をしながら
6時間かけて和歌山県の古座川に向かう。
今回の行き先はカヌーイストならば知らない人はいない清流古座川。
宿泊は、その川に向き合うかたちで建つ「ぼたん荘」にお世話になる。
そこで我々を待つのは、古座川アドベンチャー倶楽部の上田博久さんたち。

休むまもなく、ぼたん荘のやや上流にある「滝の拝」へ
「飛び込みチャレンジ」にいく。
ここは名前の通り落差8mの滝があり、その滝つぼは深く、
またそのまわりは岩が重なり合うようにいくつもの淵を作っていて神聖な雰囲気が漂う。岩は無数の穴があいた奇岩で、飛び込む前にインストラクターの上田さんの説明を聞く。
小さなくぼみに小さな石が入り込み、それが川の流れでクルクルまわりながら石を削り穴が大きくなっていく。そしてまたさらに大きな石がそこに入り、穴も石も丸く大きくなっていく。
そのことを聞いた子どもたちの関心は「なんとしても手に入れたい」とまんまるの石に集まった。
京田辺の子どもだけでなく地元の人も同じらしく、そばの神社にまん丸な石がまつられているらしい。

残念ながら、前日までの雨で川の流れが予想以上に速く「滝の拝」での飛び込みは危険と判断し断念する。
100mほど下流にある同様の地形ではあるが少し流れがゆるやかになったところで「飛び込みチャレンジ」を行った。3名の体調不良の子どもを除き全員がライフジャケットを着用、飛び込む準備をする。
大きな岩の上から下を覗き込むと、二階の窓から見た地上ぐらいの高さで、大人でも背筋が少し寒くなるほどだ。
下見に来た時は、思わず引率者の私が「ホントにこれ、やるんですか?」とインストラクターの先生にたずねてしまった。怖いと思い始めると、どんどん怖くなってしまう。勇気と思い切りが必要だ。

まず最初に、子ども達は皆で一つの円を作り、心を静め、ほら貝の音を聞いた。
遠くの山々まで響いていくようなほら貝の音に耳を済ませながら、ある子どもは、「風景が止まっていく。」と表現していた。子どもたちが流されないように川下にロープを張り、飛び込んだ子どもたちがそれをつかんで川岸に戻れるように準備をする。

インストラクターの先生が「自分の胸をドンドンと叩いて自分に聞いてみなさい。
『大丈夫!』と答えてくれれば親指を上げて。そうしたら準備OKだ。」と呼びかける。
それを合図に、決心のついた子どもから一人ずつ飛び込んでいく。
躊躇せずに飛び込む子どもから、みんなに静かにしてもらって気持ちを落ち着けてようやく飛び込める子どもまで、子どもたちの様子は十人十色である。

残念ながら二人の子どもは、その高さではどうしても決心がつかず、少し低いところからチャレンジすることにした。
一人はそれでなんとかジャンプ。しかし残る一人がどうしても覚悟が決められず飛び込めない。
クラスのみんなが声援を送り続ける。長い時間がたった。

インストラクターがついに声をかける。「止めるのももう一つの勇気だ。あと5秒の間に決めよう。いいな。」
そうして、秒読みが始まる。
「5!4!3!」だめかと思ったその子が、覚悟を決め、ついに大きくジャンプした。
「わあ!」「やったー」一斉にクラス全員の歓声が上がる。見学者以外の全員が飛び込み、「飛び込みチャレンジ」は無事終了した。

古座川のこどもたちも昔から「勇気と挑戦」の証に使う場所らしく、普段なかなか親元を離れたことのない京田辺の子どもたちも、この「飛び込みチャレンジ」で今回の旅行の覚悟を決めたようである。
旅の最初にふさわしい自然体験だった。

夕食後、少し時間に余裕があったので
いくつかのグループに分かれて、子どもたちだけで夜の古座川探検に出かける。
都会の子どもたちは、人工の明かりのない夜を経験することがあまりなく、やや躊躇しながらの探検である。
漆黒の闇の怖さや天の川がわかるほどの満点の星空を体験することができた。

 <9月3日(水)晴れのち雨 中流域でカヌーの練習・古座川源流散策>

06:30  起床
07:00  朝食
09:00  カヌー教室
12:30  昼食
14:00  古座川源流、北海道大学研究林を散策
16:00  「一枚岩」見学
19:00  夕食
20:00  入浴
21:00  ミーティング
22:00  就寝

明け方まで降っていた雨は上がり、真夏のような青空に入道雲が見える。
午前は明日の川下りに備えて「ぼたん荘」から近い古座川中流域でのカヌー教室。川に入る前に、パドルの操作、「沈(チン)」したときの対処などの説明を充分に聞く。
初めての子どもが大多数で、真剣なまなざしで説明に聞き入っていた。

ソロとタンデムの二種類のカヌーを用意し、交代で両方を体験する。
最初は、川の水に慣れる意味あいもあって、わざとカヌーをひっくり返し、カヌーから脱出し水面に上がる練習。その後、それぞれが川に出て、進み方、止まり方、曲がり方などの基本を練習する。
カヌーとカヌーがぶつかって、笑ったり、叫んだりしながら3時間あまり練習をした。明日のための準備は充分にできたが、それ自身が楽しい子どもたちはまだまだ練習し足りない様子だった。

昼食の後は、バスで古座川の源流に向かう。
オオサンショウウオも生息する上流をさらに遡り、川の水が伏流水となって地下に潜る、北海道大学和歌山研究林へ。
現地で待つのは、北海道大学の林長先生たち。

山の天気は都会の人間が想定するよりも変わりやすく、突然雨が降り出した。
思わぬ大雨になり、当初は歩いて散策する予定だったが、散策予定の道は獣道のような道で、またコケなどで滑りやすく危険なので断念し、研究林に設置されている4人乗りモノレールでピストン輸送し、研究林の中に入る。子どもたちは歩けなくなったのが残念な反面、普段目にすることもない乗り物に乗る機会に恵まれたことを喜んでいた。

研究林では、伏流水が地上に湧き出て川になるところ、まさしく「源流」を見学した。
また大雨が降り残念だった反面、この雨こそ源流の源流だということを理解し、雨に濡れながら源流を「体験」していた。そして地面から湧き出る水をコップでくみ上げ、みんなで飲んだ。子どもたちは「甘い」「おいしい」と五感で源流を感じていた。

そこであわせて子どもたちが石拾いをする。
激流に洗われる前の石は角ばったもので、今から川を下るにしたがい丸みが増していく石の表情の変化を子どもたちが体験できることを期待する。

道中で研究林の先生の説明を聞く子どもたち。
この山では10日以上ずっと雨が降り続いているが、自然が守られているこの研究林では、そんなに簡単に増水や土砂崩れなどは起こらない、など自然のすごさを神妙に聞き入っていた。

また、古座川沿いの森には、ニホンミツバチを養蜂する巣があちらこちらに置かれている。
ここにもその巣があり、モノレールを待つ間じっくりと様子を観察することができた。日本の大半はすでに西洋ミツバチが多数を占める状況の中、貴重なニホンミツバチである。
スズメバチがミツバチを襲うらしく、巣箱の前にはペットボトルに日本酒をいれたトラップが仕掛けてある。ペットボトルの中には、スズメバチがぎっしり溜まっていた。刺されないかと怖がりながらの見学。
飛んできたスズメバチから身を守るために巣のニホンミツバチが一斉に羽をこすり「ブゥーン」と音を出すのを聞くことができた。

演習林を後に、帰りの道中で古座川中流域にある「一枚岩」を見学する。
高さ100m、幅500mの一枚の巨岩で、国の天然記念物に指定されている。この岩は火成岩で、古座川の天柱岩や串本の橋杭岩と同じ石なのだが、この和歌山は昔は大きなカルデラだったらしく、そのカルデラの円周上に奇岩が並ぶという、めずらしい景観を目で楽しむだけでなく、地質学的な理解もしながらの見学だった。

 <9月4日・晴のち曇り時々雨 中流から河口付近までカヌーで川下り体験・農作物の収穫>
三日目・カヌーで川下り

07:00  起床
07:30  朝食
09:00  カヌーで川下り体験
11:00  途中で休憩し手長エビを取る
12:00  河口付近に到着
13:00  昼食
14:00  農園で農作物の収穫
16:00  「橋杭岩」見学
17:00  「潮岬青少年の家」到着
19:00  夕食:バーベキュー
       (自分たちで取った手長エビ、収穫した野菜など)
20:00  入浴
21:00  ミーティング
22:00  就寝

今日は快晴。いよいよ待望のカヌーでの川下り。
上手い具合にタンデムの希望者は艇の数とぴったり一致する10名。ソロとタンデムに乗りわけ、川の流れの説明などを聞いて、ぼたん荘のそばから全員で出発する。
河口までおおよそ二時間、途中手長エビを取るため一時間かける予定なので合計三時間、子どもたちにとっては大冒険である。昨日が初めてだった子どもが多い中、今日が二日目とは思えないほどみんな順調に漕ぎ出す。
少し流れの速いところでは、カヌーがグルッと回ってしまったり、苦労する子もいたが、5名のカヌーの先生に守られながら、事故もなく二時間を順調に乗りこなす。

カヌーが係留できる岩場で小休止。そこはすでに下流域で手長エビが採れるポイントだった。
5〜15cmほどの大きさの手長エビを全員で四苦八苦しながら採り続ける。
今晩のおかずの一品だと伝えれば、その努力も尋常でない。だが、むやみやたらに網を振り回してはいけない。
エビが十分姿を表すまでじっと待っていないと採れない。辛抱強く待つことが重要である。

「30人全員が一匹ずつ食べられるように、30匹採りたい!」
子ども達は、エビを数えながら、無我夢中とはこういう状況なのだろうというほどみんなで必至に採り続けた。

もう一時間漕ぎ続け、河口の少し手前まで古座川を下る。
船の回収の問題から海まで出ることはせずに終了したが、海までいけなかったことに多くの子どもたちが残念がった。
また子どもたちにとってはあっという間の三時間だったようで、まだまだ漕ぎ足りない様子だった。

カヌーを降り、お弁当を食べ、午後は農作物の収穫である。
カヌーの先生のお知り合いの農家で収穫をさせていただく。9月はあまり野菜が収穫できない時期だそうだが、サツマイモだけは小ぶりとはいえ充分に収穫することができた。今晩の主食になりそうである。
もう一軒、カヌーの先生が交渉してくれていた「和歌山県ふるさと定住センター」という施設の農園で野菜や果物を収穫する。そこでは、ブドウ、ミカン、ユズ、オクラ、ナスなどさまざまの野菜や果物を、これも今晩の食材として確保する。
農作業は京田辺の子どもたちも授業で慣れ親しんでいる作業だ。
普段から土に親しんでいるせいか手際よく収穫をすることができた。

時期が時期だけに残念ながら収穫量は充分とはいえず、道中でお肉などを少量買い込み、今晩のおかずの足しにした。
また、道中で「橋杭岩」に立ち寄る。「一枚岩」との関連を改めて目で見ることにより、自然の偉大さを改めて感じることができた。また海岸沿いのまるい石を拾うことにより、源流での石と比較する機会となった。

今日の夜は、バーベキュー&キャンプで過ごす予定だったが、夕方からあいにくの雨。
テントを張るのをあきらめ、古座川流域を離れ「和歌山県立潮岬青少年の家」に急遽宿泊をお願いする。
昨日まではほぼ満員だったらしいが、たまたま今日は運よく宿泊させてもらうことができた。
キャンプはあきらめざるをえなかったものの、ここではバーベキューの施設がちゃんと備えられており、収穫した野菜や手長エビを堪能することができた。自然に囲まれた中でのバーベキューは、子どもたちにとってはレストランで食べる料理よりもごちそうかも知れない。
みんな楽しそうにおなかいっぱいになるまで食べた。

今晩のメインディッシュの手長エビは生きたままここまで運んだので、生きたまま料理をすることになった。
スーパーで買ってきたものを見ることがほとんどの京田辺の子どもたちには、生きたままの料理は「かわいそう」と「おいしい」の複雑な気持ちが同居する中、「命」について考えさせられる機会にもなったようだ。
自分で収穫したものは格別においしいらしく、ブドウやミカンまで焼きだして、またそれが甘みが増しておいしかったことなど、新たな発見もあったようである。

 <9月5日・晴れ 海中公園でシュノーケリング・移動日>
四日目・シュノーケリング

07:00  起床
08:00  朝食
09:00  出発
10:00  串本海中公園でシュノーケリングとビーチコーミング
13:00  昼食
13:30  出発
18:30  京田辺到着・解散

いよいよ最終日。
ここ数日の不安定な天気にも関わらず、
肝心なところではいつも晴れてくれた毎日だった。
今日も運よく午前は晴れ。
青少年の家を後にし、串本海中公園にある串本ダイビングパークに向かう。

源流から始まり、いよいよ海まで出ることができた今回の旅も最後の日。
最後の自然体験はシュノーケリングである。

インストラクターの説明を聞いた後、ウェットスーツを着用し、フィンをつけ、シュノーケリングでの呼吸にチャレンジする。この海は、深さが3〜5mと浅くて、子どもでも比較的安全にシュノーケリングを楽しむことができる。
ここは本州最大規模のテーブルサンゴの群生があり、また色鮮やかなトロピカルフィッシュの群れに出会うことができるので、京田辺から近い大阪湾の海とはまた違った体験になることは間違いない。
今日まで学校で続けてきた水泳の練習の成果を最大限に発揮する場面である。グループに分かれて、二時間ほど海に潜り続けた。
スズメダイやクマノミなど様々な魚を発見し、インストラクターに聞いたり、後で図鑑で名前を調べたりした。魚だけでなく、ナマコ、ウニ、ヒトデやイソギンチャク、中にはウツボまで発見したグループもあった。

シュノーケリングの後は、海岸でビーチコーミング。
石だけでなくきれいな貝や生き物の骨を拾う。海がめの骨を発見した子どももいた。

昼食を食べ終わり、お礼として練習してきた歌を合唱し、いよいよ帰る時間になった。
子ども達は4日間を共にしたインストラクターの人たちと別れがたそうに、再会を約束している。名残惜しい中、皆に見送られてバスが出発する。

「さようなら〜」「ありがとうございました!」
バスの窓から、子ども達が叫んでいる。インストラクターの人たちもずっと手を振りつづけてくれていた。
行きと同じぐらいの時間をかけ、京田辺に向かう。

日が暮れたころに京田辺着。楽しかった旅もいよいよ終わりである。
行く前は、直前に夏風邪をひく子がいたり、普通の修学旅行よりは長い今回の研修旅行に、子どもたちが疲れてしまわないか、などと子どもたちの体調を心配していたのだが、事故もなく、全員が活動を満喫することが出来て本当によかった。

4日間を通じて、上流から海までの水の違い、石の違いなど「学ぶ」を越え「感じる」ことができた今回の自然体験。
シュタイナー教育の核のひとつともいえる充実した研修旅行にすることができた。
いろいろな自然体験を通して、学校で学んだことがより深く子どもたちの中に入っていくこと、また、さまざまチャレンジをすることにより、子どもたち一人ひとりが成長していく姿を見届けられたことは教師としての大きな喜びである。
そして子どもたちが自分なりに様々なことにチャレンジする姿は、大人の私たちにも元気を与えてくれた素晴らしい研修旅行だった。



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