NO団体名主な企画内容
9 一般社団法人 サイエンスエデュケーションラボ(千葉県) 「科学の力で無人島サバイバルキャンプ」
無人島を模したフィールドで用意された最低限の道具と、事前に学んだ原理を活用して、試行錯誤しながら与えられたミッションの解決に取り組むキャンプ。人類が自然を観察・探求してきた歴史と技術に理解を深めるとともに、子どもたちの今後の自然観察の探求につながるよう促す。

速報レポート2 科学の力で無人島サバイバルキャンプ

活動日   2022年7月10日(日)
活動場所  手作り科学館 Exedra(千葉県柏市)
参加人数  10:00~11:30 参加者6名、スタッフ4名
      13:00~14:30 参加者9名、スタッフ5名
      15:30~17:00 参加者8名、スタッフ3名
      計 35名
実施概要

 第2回の活動は、2022年7月10日(日)に、第1回と同じく千葉県柏市の手作り科学館 Exedraにておこなった。室内での取り組みのため、感染症対策として、参加者を3グループに分け、同内容で3回にわけて実施した。参加者数とスタッフ数は、10:00~11:30の回が6名・4名、13:00~14:30の回は9名・5名、15:30~17:00の回は8名・3名であった。1週前におこなった第1回と、原則として同じ顔触れがそろったため、参加者同士も打ち解け、会話が弾んでいた。合宿参加前に不安が解消され、また、コミュニケーションが活発に行えるようになったことで、体験や学習の効率が向上した。

 この日は、全4回のカリキュラムのうちの第2回にあたる活動日だった。初回で実施したボードゲームに出てくるミッションのうち、子ども達の関心が高かったものの中から2つのミッションを選び、原理を学ぶために実験器具を用いて実験をおこなった。

生肉を腐りにくくするには?|燻製のメカニズムを学ぶ

 自然体験活動の中で何かを学びとるためには、体験者が何らかの『問い』を持って自然を観察し、『問い』に取り組む過程で体験が必然化されるのが望ましい。そこで本プログラムでは、我々が監修したボードゲームに出てくる『問い』を活かすことで、子ども達に注目させ、考えさせたいポイントを予め最低限、提示することにした。ミッションを選ぶ基準は、合宿時に自然の中で実践が可能なことの原理を実験室で学べるもの、アウトドア体験と実験室でのインドア体験が有機的に接合して幅広い学びにつながること、試行錯誤など子ども達の成長に必要なプロセスが実践的に学べること、科学館で実施することにより独自性の高まるもの、とした。

 1つ目は、人類が人類たるゆえんである、調理に関するミッションだ。科学館で開催しているので、収蔵しているニホンザルやカミツキガメの頭骨の標本を示し、噛むための筋肉が付着することで現れる頭頂部の特徴的な構造を観察し、さらにサルと比べて調理によって食材を柔らかくしてから食べている人間は噛む力が弱くなり、頭骨の構造が変化していることを学んだ。
 その後、調理手法のひとつである燻製によって、食材が腐りにくくなるメカニズムを学んだ。プログラムの講師を務めている弊館の館長・副館長らが翻訳出版した『STEMナビ サイエンスシリーズ』を参照し、燻製による脱水・殺菌作用で微生物による化学変化を抑制する効果があることを学んだ。


燻製が微生物による食物の化学変化を抑制することを解説した後、燻製器を用いて具体的な手法について説明しているところ

 続いて、燻製のメカニズムを確かめながら食材の変化の様子を観察する実験をおこなった。燻製の原理を解説した上で、実験方法は子ども達にも発問し、考えを促しながら実施した。最終的には、燻製中の食材の変化が見やすいよう、ガラス製のビーカーを用い、アルコールランプの炎で調理した。さきイカとピーナッツが燻され、徐々に色が変わっていく様子を、子ども達は熱心に観察していた。実験は2~3名ずつの班を作って実施した。途中、子ども達は細かな変化を見逃さず、他の班の実験の様子を観察し、進捗の違う理由を考察したり、自分たちの班の燻製速度を高めるためにどうしたら良いかと議論したりする自発的な行動が見られた。注目すべきポイントを見逃しそうになった時や、子ども達だけでは考察に行き詰った時には、スタッフが声かけをしながら子どもたちの考えを引き出した。


ビーカーを使ったお手製の燻製器で、においや食材の色が変化する様子を観察している子ども達

さきイカやピーナッツが燻されて、色が変わっている様子

 燻製終了後は、調理前の食材と比較し、色やにおい、温度の変化を確かめた。また、お互いに気づいたことを伝えあって、個々の学びを全体の学びへと広げていた。


一瞬、マスクを外し、自分たちで燻製した食材のにおいをかいでみる

燻製した直後の食材を触って温度を確かめたり、さきイカとピーナッツのにおいをかぎ比べたりしている子ども達

油を作るには?|試行錯誤を学ぶ

 自分で考え、答えのない問いに取り組むには、解決策の示された課題をこなすだけでは不十分だ。問いに取り組む過程で行き詰ったら、自分で試行錯誤しながら困難を乗り越える必要がある。そこで、試行錯誤できる題材として、特に子ども達から「やってみたい」と希望が多かったミッションの中から、油を作るミッションを選んだ。
 まずは、隠された目的を明確に可視化するため、「作った油を何に使うのか」と問いかけ、料理の他にも、水をはじく性質を活用して防水性のレインコートを作ったり、燃える性質を利用して松明の燃料に使って明かりをとったりできることを考えてもらった。
 次に、提示された方法の1つである、直接加熱によって肉の脂身から油をとる実験をおこなった。アルコールランプの熱で牛脂を溶かして液体状に変化させた。
 続いて、水をはじかせるため、溶けた状態の牛脂や、溶かす前の固まった牛脂を、紙や布につけ、スポイトで水を垂らして撥水性を確かめた。溶けた油を紙や布に垂らすと、しみこんで反対側の面にも脂が付着するため、レインコートとして使用すると体が油でべたべたすることが予想された。一方、溶かす前の固まった牛脂を塗ると、重くはなるものの、高い撥水性を示すことが確かめられた。知識として知っていても、ミッションを実現する上で実際に活用するためには試行錯誤が必要であることに、子ども達も気づき始めた。
 また、油は燃えるものであるという発想から、ろうそくの代わりに油を燃やしてみる実験もおこなった。麻ひもで芯を作って油を燃やすと、小さな炎が長時間続き、安定して明かりをとることができることがわかった。この時も子ども達は、どうして火が小さくなるのだろうか、火が消える瞬間が訪れるのはなぜか、どうしたら火が長く自足するか、とお互いに疑問をぶつけあい、議論しながら考えを深めていた。最終的にはそれらの問いに対して、確からしいと思われる答えを探すべく、考えるために必要な情報を講師陣が伝え、さらなる議論を促したところ、子ども達だけでそれぞれの答えにたどり着くことができていた。



班ごとに分かれ、油を作るミッションに取り組んだ

各班には実験中にスタッフがつき、子ども達の議論に必要な情報を提示したり、議論を促したりする働きをした

 最後には、ミッションの答えとしてゲーム中で示されたもうひとつの方法(肉を煮込んで上澄みを集め、布でこし取る方法)で油をとることができるか、どちらの方法が効果的かを議論した。事前に講師陣が実施していた予備実験の結果を示し、その結果を参考に考察した。また、より大掛かりに実施した場合を検討する材料として、標本化作業のために煮込んでいた中型の野生動物を用いて、動物1頭からとれる油の量について考えた。油は少なく、灰汁も浮いていて、きれいな油を入手するのは難しそうだということに気づいた。これも科学館という社会教育施設を用いて実施したからこそ実現できた、学習上の価値のひとつである。おわりに身の回りで使われている調理用油の工業的な製法を紹介した。


大きな寸胴鍋で煮込まれ標本化の途上にある動物の肉を興味深く観察している子ども達

 問いを立て、事前に原理を学び、試行錯誤しながら自然体験の中で注目すべきポイントを理解しておくことは、自然体験活動の中で学べる要素を余すところなく体験し、また学び取る上で非常に大きな役割を果たしうると考えている。また、知っているつもりでも実は細部まで想像が至らず、実践しようとするとうまくいかないケースは多くある。試行錯誤の中で最適解を見つける経験は、自然体験活動の中でも必ず生きてくると確信している。

次回はいよいよ、これまでに学んだ知識を活かし、苗場の山奥で自然体験キャンプを行う。



速報レポート1 科学の力で無人島サバイバルキャンプ
速報レポート2 科学の力で無人島サバイバルキャンプ

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