NO団体名主な企画内容
11 柏の葉サイエンスエデュケーションラボ(千葉県) 「理科の体験農業」
農業体験を通じて子どもたちが、自分たちの感性で不思議だと思うことを自発的に探し出し、お互いに伝え合うことで、好奇心やコミュニケーション力、思考力を身につけることを目指す教育的要素の高いプログラム。

速報レポート1

実施日時:2015年8月15日(土)~16日(日)10:00~18:30
実施場所:プロジェクトハウス(千葉県柏市若柴)
参加人数:小学生12名、中学生1名、保護者9名、スタッフ11名
位置づけ

本プログラム「理科の体験農園」は、自然体験活動を通じて身近な科学に触れ、親しむ理科教室です。昨年までは合宿型で、地域の子供たちを連れて山間部を訪れ、そこでの1泊2日の自然体験活動を行なっていました。しかし参加者からの「地元で行ってほしい」というリクエストや、スタッフ間での「継続的な学びの場を整えたい」という想いも重なり、今年は我々の活動している地域の中で、継続的に自然体験をしながら理科・科学を学べる場を作ることにしました。
自然体験活動の中で様々な自然現象を目にすることができます。しかし、それらの自然現象は身近なため、ともすると見過ごすことも多く、また現地でできる科学的な説明にも限界があります。そこで事前に見どころをピックアップして伝えることで、現地で様々な自然現象に気付くきっかけを作りました。昨年は2時間のイベント型の講義形式での事前学習会を行ないましたが、今年は参加者の興味に応じてより長時間、自由に学べるようにと、展示会を実施してそこに来て説明を受けたりワークショップを体験したりすることで事前に学びを深められるように工夫しました。事前学習では、専門の器具を用いた理科実験や、準備された体験活動を通じて、自然体験を科学的に理解することが可能となります。本速報レポートではこの事前学習について報告します。

概要紹介

事前学習として、土について学べる展示会を開催しました。25m2の小さな展示スペースを借り、そこに様々な展示物を設置して来場を呼び掛けました。参加者は10:00~18:30の間にこの空間を訪れ、自分の都合の許す限り、好きなだけ学ぶことができるよう、会場には常時スタッフが複数人常駐しました。
 会場を訪れると、まずは用意されたプログラムを順番に体験します。用意したプログラムとその狙い、並びに参加者の様子は以下の通りです。

【プログラム1:ポスターを用いた解説】
 土とは何か、土の形成過程、堆肥化、土の役割などについて、高さ180 cm×幅90 cmのポスターを8枚用意して解説しました。写真を多用し、徐々に難易度が上がっていきます。スタッフが付き添って説明し、理解の手助けを行ないます。
 今回の開催形式の特徴として、親子で来場することになります。すると、子どもはもちろん、親御さんがとても熱心に聞き入っている様子が見受けられました。これは、仮に子供たちに未消化な部分が残ったとしても、帰宅後に親子でのコミュニケーションの中でそれが解消される可能性を示唆しており、持続可能な学びの場を形成する重要な機会となりました。


ポスターを見ながら、スタッフから説明を受ける親子

【プログラム2:土の形成・成熟過程の体験】
 土とは、岩石が風化を受けて破砕され、そこに水や空気、そして有機物が混合して形成されたものです。したがって、地球ができた直後から存在するのではなく、生命が誕生してから形成されるようになりました。これは、有機物の生成される量が生命誕生以降飛躍的に増加したことに起因しています。
 展示としては、岩石が破砕されたものとして、2mm以上の礫、それ以下の砂を用意しました。組成が違うものにも触れてもらうため、火成岩系の礫と、堆積岩系の川砂を準備しました。また、畑の土も用意し、土が形成され、最終的に成熟していくスタートとゴールを明確に示しました。三者には素手で触ってもらい、触感の違いを感じてもらいました。





(礫と砂は購入元のWebページから、土はフリー素材をそれぞれ引用)

【プログラム3:堆肥づくり】
 無機物のみで構成される礫や砂から、有機物を多く含んだ土への進化で最も大きな要因は、有機物の分解と土の撹拌です。そこで、このプロセスを体験するため、堆肥づくりを行ないました。
 当会の活動は地元に密着して行っています。そこで、地域内にある東京大学柏キャンパスの研究室で行われている研究を参考に、地元の雑木林(こんぶくろ池自然博物公園)の間伐材をチップ化した木材と周辺のレストランから出る生ゴミを原料として堆肥を作り、廃棄物を減らす試みを行ないました。間伐材チップと下草(雑草)、生ゴミの混合物に、発酵を促進させるための米ぬかと水を加えて良くかき混ぜます。生ゴミがむき出しになった写真は時に見る方に不快な思いをさせてしまう可能性がございますので、以下の写真は生ゴミが写っておらず、また米ヌカを入れる前の状態のものを選んでいます。間伐材と生ゴミを利用して廃棄物を減らすことで環境問題に関して考えるきっかけにもなるとともに、東京大学で行われている最先端の研究に触れる機会にもなりました。


雑草と生ゴミ

近隣の雑木林の間伐材チップ(コナラ、表皮入り)

混合状態(堆肥化開始時の様子)

学習会の1週間前に仕込みました。

堆肥の発酵には時間がかかるため、学習会の一週間前にスタッフが材料を混ぜて仕込み、当日は参加者に撹拌を手伝ってもらいました。堆肥はまず、材料に含まれる糖が微生物によって分解・発酵されます。その際に熱が発生し、高い場合には60℃程度まで上昇します。微生物の働きによって発生したこの熱を体感してもらうため、堆肥ボックスの中に手を入れて触ってもらいました。表面は冷たいのに、内部に手を入れると暖かくなるのが確認できると、子供たちが皆一斉に笑顔になるのが印象的でした。
堆肥の発酵には、好気性細菌(酸素を活用して発酵を進める細菌)と嫌気性細菌(酸素を利用せずに発酵を進める細菌)とが関わります。好気性細菌が優勢の間は匂いがしませんが、嫌気性細菌が優勢になると、酸素が利用できないため悪臭が発します。また、好気性細菌の方が、反応が効率よく進みます。悪臭を減らし、かつ短時間で堆肥を完成させるためには、好気性細菌の働きを優勢にする必要があります。そこで、暖かさを感じた後には、子ども達自身に撹拌も行ってもらいました。会期の最初のうちは、容器いっぱいの堆肥をこぼさないように慎重にかきまぜていましたが、何度も混ぜて発酵が活発化すると堆肥の体積も減るので、後半に来た子ども達は容器の余裕のある中で微生物由来の暖かさを感じながらかきまぜていました。


ボックスに入った堆肥を皆でかきまぜる。この頃はまだ容器がいっぱい。

【プログラム4:微生物の採取と顕微鏡観察】
有機物は微生物によって分解されることで、植物が養分として吸収することのできる形になります。さらに、分解されたままではバラバラにしか存在していない土壌粒子や有機物、水分なども、土壌生物の働きによって単粒構造から団粒構造へと構造が変化し、その結果として植物が成長しやすい成熟した土壌が形成されます。つまり、土は生物の活動によって成熟度を進めていくわけです。そして、体験農園で触れる土の中には、世界中の人口をはるかに超える数の微生物が住んでいます。
そこで、今回は土の中から微生物を取り出し、顕微鏡で観察しました。微生物を取り出すのに使うのはツルグレン装置と呼ばれるものです。原理は簡単です。土の中に住む微生物のほとんどは、強い光と熱を嫌います。そこでザルの上に盛った土に、光と熱を発する白熱灯を当てると、それを嫌がった微生物は下に向かって逃げ出します。すると、ザルの網目から落ち、漏斗を伝って、下にセットされたエタノールで捕獲できる、という仕組みです。今回はスタッフが用意した土の他、参加者が持ち込んだ土からも微生物を取り出しました。その結果、トビムシやヒメミミズなど、多くの生物を取り出すことができました。顕微鏡をのぞくのが初めての参加者も多く、最初は観察するのに苦労していましたが、道具の扱いに慣れてくると、簡易顕微鏡をあちこちに持って行って、土だけでなく様々なものを観察していました。


微生物を取り出すツルグレン装置


顕微鏡(×100, ×200, ×400)や簡易顕微鏡(×80)で、スライドガラスに乗せた微生物を観察する様子。



【プログラム5:土の役割~水耕栽培との比較から~】
土には植物を育てる上で、様々な役割があります。例えば水や養分を与えたり、植物が倒れないように支えたり、他にもいろいろ。そんな土の役割を考えるには、土を使わずに植物を育てる「水耕栽培」と比較するのが一番。しかも、柏の葉には世界最先端の植物工場を研究する千葉大学環境健康フィールド科学センターがあり、街の各所に水耕栽培型の植物工場が設置されています。そこで、水耕栽培と土を使った栽培の2種類で育てたバジルを展示し、その違いを観察しました。
最も簡単に気づける特徴は、根の広がり方の違いです。水耕栽培バジルの根は、土との接触刺激が少ないため、効率よくまっすぐに伸びていきます。一方、土栽培バジルの根は団粒構造の隙間をぬって伸びていくため、土に複雑に絡まっています。機能の面で最も大きな違いは、緩衝作用の有無です。これに関しては、実験によって小学生向けに示すのはなかなか難しいので、ポスターで解説を行ないました。かなり難しい内容でしたが、子ども達が根気よく説明を聞いて質問を繰り返し、理解してくれた時にはスタッフも感動しました。


街のレストランに設置されている植物工場

千葉大学の植物工場(完全人工光)

プログラム内で展示した水耕栽培バジル

結びに変えて

企画書の段階では、事前学習はサイエンスカフェを開催し、その中でワークショップを実施する、という内容で申請していました。しかし、より深みのある学習を目指して、またトム・ソーヤースクール企画コンテストで求められている「企画力」向上を追求し、本速報レポートで報告した展示会形式での事前学習会を開催しました。参加者からは、「土の中にはものすごくたくさんの生き物がいることがわかって面白かった」「理科すごく楽しかった!顕微鏡で見るのがとても楽しかった!」などの感想が寄せられた他、自分の理解度に応じて質問しながら理解を深めることができたのでイベント形式よりも良かった、という声を多数いただきました。また、学習コンテンツを用意するスタッフとしても、時間軸に沿って一次元的にプログラムを進めていくのではなく、空間を使って二次元的に体験内容を配置し、その中を自由に行き来できる場は、子どもの興味・関心や理解の進み具合に応じて場所を移動しながら解説できるという楽しみがありました。地域で行われている最先端の研究についても、複数紹介することができ、柏の葉地域ならではの内容になったと自負しています。単なる学習会ではなく、こうした学びのあり方についても今後深めていければと考えています。



速報レポート1
速報レポート2
速報レポート3

■別年度のレポート
2016年度 理科の修学旅行 〜アクティブラーニングで海と山と川と教室をつなぐ〜 実施レポート
2014年度 理科の修学旅行 実施レポート

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