NO団体名主な企画内容
27 尾鷲市立向井小学校(三重県) 「『僕らのあそび場づくり~海育・とと育・おわせ行く~』」
「山育・木育」、「川育・雨育」に続く第3弾。子どもたちが主体的に行う尾鷲の自然の特徴を生かした「あそび場づくり」を通して、リスクマネージメントや、自主性、自立性、郷土愛などを育み、自ら考え行動できる能力を身につける活動。

速報レポート4 コロナ禍での緊急事態宣言発令下におけるオンライン学習

実 施 日:令和3年9月28日(火)08:30~11:30
活 動 場所:三重県尾鷲市大字向井134−12 尾鷲市立向井小学校
参 加 者:尾鷲市立向井小学校5・6年複式学級9人(5年生3人・6年生6人)
校長、担任、教職員1人
世 話 人:三重大学 大学院 生物資源学研究科 竹端彬良
サポーター:(有)ドーモ(森田)、小川耕太郎∞百合子社(藤井)、三重大学自然環境リテラシークラブ(坂本、山本他6名)
      三重大学東紀州サテライト(山本)、尾鷲藪漕隊(内山他3名)、尾鷲ライフセービングクラブ(大谷)
      三重県紀北活性化局(桝屋他2名)、尾鷲市水産農林課(千種)   計21人
協力(講師):三重外湾漁業協同組合尾鷲支所(湯浅氏)
活動の概要

場所:尾鷲市立向井小学校、他関係者はオンライン接続
時間:午前8時30分~午前11時30分(総合的な学習の時間)
8:00-8:30 小学校、世話人、サポーターのZoom接続確認
8:30-8:40 児童Zoom入室
8:40-9:00 前回活動の振り返り、かるたの発表
9:00-10:20 第一部:図鑑で調べる尾鷲の生物
10:20-10-50 第二部:尾鷲の誇り〜漁師と魚〜
10:50-11:00 休憩
11:00-11:30 振り返り、本日の学習内容の各自発表
11:30 終了

活動内容・目的

 第一部のテーマは「オンライン磯採集」。
 あらかじめ撮影された海中映像を見ながら、尾鷲の浅海域(磯場)にどんな生き物が生息しているか、図鑑を片手に探検する。
 生物多様性が環境の多様性に支えられることを体感しつつ、自主的な学習・野外活動手段としての「図鑑の使い方」を学んでいく。
 第二部では、地元尾鷲の基幹産業である漁業について理解を深めることを目的に、地元の漁業協同組合で様々な活動を展開する湯浅光太氏をお招きし、尾鷲の漁業や漁獲される魚介類、さらには魚食文化に関して講義をしていただき、地元水産業のみならず食文化についても理解を深める。

活動の様子

前回活動の振り返り

 「海育・とと育・おわせ行く」では、全5回の各活動後に、児童がその回で学んだことや感じたことを五十音のカルタにする宿題が出されている。
 本日の冒頭では、前回の活動の後に児童が作成したカルタの発表が行われた。
 児童は「=もとすがり きれいな海を いつまでも」など、前回の活動から感じたことを上手にカルタに表現していた(図1)。
 この一人一人の発表に対し、世話人の竹端さんが前回活動の振り返りを兼ねてコメントをしていった。


図1 児童が作成したカルタの1例

第1部「図鑑で調べる海の生き物」
 今回講師を務めていただいたのは三重大学東紀州サテライト研究員の山本慧史さん。
 前回の活動から日が空いたため、初めに第1回からこれまでの活動についての振り返りが行われた。
 尾鷲の海の豊かさは、海環境だけではなく、雨や山、川、これらの自然環境を物質が循環することで支えられていることの説明があった。(図2)
 また、ここに人の手が入ることで、さらに生物生産性・多様性が増した地域のことを「里海」と呼ぶことを改めて説明された。(図3)


図2 森と海の関連イメージ

図3 里海スライド

 第2回の活動の復習では、山・川から流れ出た栄養分が海のプランクトンを育て、これが餌となって海の生物多様性を高めていることの振り返りをした。
 実際に河口域でプランクトン採集を行って、生物生産性について体感したことや、児童らが採集したアサリを使って、アサリが植物プランクトンを食べていることを確認する実験の振り返りを行った。(図4)
 これらの活動から、第2回では、児童らは食物連鎖と生物多様性について体験を通じて実感をもって学んでいた。


図4 第2回でのプランクトン採集の様子

 山・川が供給する栄養素が、プランクトンを増やし、餌を供給する。
 この物質循環システムのみで、尾鷲の海の豊かさが保たれているのだろか・・・。
 この疑問に応えつつ、向井小学校の目の前の海にどんな生物がいるのか、どんな自然環境があるのか、その両者にはどんな関係性があるのか、これを考えていくこと本日の活動の第一部の狙いである。
 当初の企画においては、尾鷲市行野浦の磯場で、磯採集と生物観察を実施する予定であったが、緊急事態宣言により大学関係者の小学校への訪問ができなくなったため、急遽オンラインでの実施となった。
 オンラインであっても活動のクオリティを落とさないようにするため、尾鷲の海の様子を知ってもらうため、そしてなにより児童らに楽しんでもらうために、今シリーズの世話人である三重大学の山本さんと竹端さんにより、以下のオンライン企画を考えていただいた。

 今回の第一部内容では、事前に山本さんと竹端さんが、本来子どもたちが行く予定であった尾鷲市行野浦の磯場(図5)にて、海中映像の撮影をしてきてくれた。
 当日は、この海中映像(動画、写真)をタブレットで見ながら、講師と子どもたちが同じ図鑑を片手に「オンライン磯採集」を進めていった。


図5 生物調査をした行野浦の磯場

 そもそも図鑑に馴染みがない子どもたち。まずは、図鑑の種類についての説明からしてもらい(図6)、全世界に魚が約3万6,000種いることや、今回使う図鑑にも3万6,000種も載っていると思うか?などの問いかけに答えながら、小学校の図書館に置いてあるものから研究者が使うような分厚いものまで、図鑑の種類は様々で、目的に合わせて使うようにしようとの話があった。


図6 様々な図鑑。真ん中が今回のオンライン磯採集で使用した図鑑

 次に、行野浦で撮影した水生生物の写真を見ながら、子どもたち自身が図鑑を使ってその生物種が何であるかを調べる「オンライン磯採集」を行った。
 一人ひとりが、まずは自分の力で考えて調べられるように、種名がわかってもすぐに口にしないなどのルールの説明を受け(図7)、図鑑を使った生き物の調べ方を説明してもらった。
 生き物が生息する場所ごとにページが分かれていることや、魚やカニ、貝などの種類ごとでもまとまって記載されていることの説明があった。(図8)


図7 オンライン画面の様子

図8 オンライン磯採集で使用した図鑑。「海辺の生物(小学館発行)」

 魚の写真が画面に映し出されると、子どもたちは、真剣に必死で図鑑をめくり、該当する生物種を探すことに夢中であった。(図9)
 まずは自分一人で考える時間であるのに、見つけると思わず声に出してしまう児童も。
 その後、周りの友達と相談できる時間になると、口々に自分の意見を言い、「こっちの方が似ているよ。」「これじゃないかな。」と話し合う姿が印象的であった。
 とてもよく似ている生物種が図鑑に数種類載っていることもあり、判別が難しい種も多く(図10)、種同定(生物種を特定すること)を間違えてしまうと、とても悔しがる児童もみられた。


図9 オンライン画面の様子

図10 行野浦で撮影した生き物

 オンライン磯採集の後は、学名の説明を受ける。
 例えば「カサゴ」は日本読みだが、様々な国の人たちとある生物について議論するときに、それぞれの国の人がその国の呼び方で話すと大変なことになる。そこで、生物には必ずついている世界共通の名前がある。それが学名であると山本さんが話す。
 一方で、地方独特の読み方がある生き物もいると話す。尾鷲ではカサゴのことを「ガシ」または「ガシラ」と呼ぶ。
 この地方名はその地方の文化そのものであるため、ぜひ覚えてほしい。みんなも尾鷲の生き物の地方名を知って、友達や家族に話してみようと説明を受けた。(図11)


図11 カサゴは、尾鷲ではガシ

 また、今回オンライン磯採集の舞台であった行野浦には「漁礁」があると説明を受ける。漁礁が小さな生き物の隠れ家となり、大きな魚から身を守っていることや、小さな生き物を食べる大きい魚が漁礁に集まってくることから、生物生産性・生物多様性が高くなっているとのことであった。(図12)


図12 漁礁についての説明スライド

 このように人手が加わることで生物生産性・多様性が高くなった地域のことを「里海」と呼ぶと第1回の授業で学んだが、今回のオンライン磯採集を通して、子どもたちはそれを体感的に学ぶことができた。
 海には、磯場、漁礁、藻場などの様々な自然環境があり、生態系の多様性が生物の多様性を守っているということがわかった。
 今日登場した生物たちは、すべて向井小学校の目の前の海で観察されたものである。第一部では、「みんなが生物多様性そのものを守っていくことは難しいが、自然環境を守っていくことはどうか?みんなでもできる活動として、海岸清掃で漂着ゴミを拾うことも自然環境を守ることにつながる。尾鷲の多様な自然環境をみんなで守っていこう。」との呼びかけで締めくくられた。(図13)


図13背景写真は全て行野浦で今回撮影された生物

第2部「尾鷲の誇り〜漁師と魚〜」
 第2部では、尾鷲市早田町で漁業協同組合に所属する湯浅光太さんに講師をしていただき、尾鷲の漁業・尾鷲で採れる魚についてお話ししていただいた(図14)。


図14 講師を務めた湯浅光太さん

 湯浅さんからは、まずは、定置網で魚が捕れる仕組みをお話ししていただいた。
 尾鷲の海は沿岸から急に水深が深くなり、魚が回遊してきやすい場所。このような場所に網を設置して、回遊してくる魚を漁獲するのが定置網のスタイルだと説明を受けた。
また、定置網漁はその構造から魚が逃げやすく、魚を捕り過ぎないので、資源に優しい持続可能な漁業であるとのことであった。


図15 定置網に魚が入る流れ

 尾鷲市の養殖では、主力であるマダイ、市内の企業が生産力を伸ばしているブリ、尾鷲市が全国一の生産力を誇る幻の高級魚マハタ、高級魚のシマアジなど、養殖漁業についての説明を受ける(図16)。


図16 尾鷲湾内での養殖いかだの様子

 続いて湯浅さんが勤務する町、尾鷲市早田町の話。人口が117人、高齢化率は7割に近い小さな漁村集落で、定置網漁を盛んに行っていると説明を受ける。
 漁業に力を入れて取り組む早田町だが、人口が減り、漁師になる若者がいないことが問題になっているとのこと。
 一方で、都会には漁師になりたいがどうすればいいかわからず困っている若者がたくさんいるという。その若者と漁業をつなげるために「早田漁師塾」をはじめた。(図17)。
 早田漁師塾では、1ヶ月間、早田町に寝泊まりし、漁業体験やロープワーク、漁業に関する法律を学ぶ。この取り組みにより、早田町に残り、漁業に携わる人が出てきたとのことである。


図17 早田漁師塾で学ぶ様子

 また、早田町で最もたくさん捕れる魚はブリとのこと。
 尾鷲市の魚にも指定されているが、一般的にブリといえば知名度が高いのは日本海のブリ。
 そこで、早田町の美味しいブリを多くの人に知ってもらいたいという思いから「早田ブリまつり」を始めた。今では、人口100人の町に1日で1000人が集まるお祭りになったとのこと。(図18)


図18 早田ブリまつりの様子

 湯浅さんは、尾鷲のいいところは季節ごとにおいしい魚が食べられることと、自然が豊かで、海・山・川で遊べることだと話す。
 湯浅さん自身が一度尾鷲を離れて生活したことから、尾鷲の良さがよくわかるようになったとのことで、「皆さんもぜひ尾鷲に生まれて住んでいることを誇りに思って、尾鷲を、尾鷲の魚を好きになってください。」と子どもたちに伝えた。

振り返り
 すべての講義が終了し、今日学んだこと、気づいたことを振り返りシートに記入し、一人ひとり発表した。(図19)


図19 今日の学びを発表する児童(Zoom画面)

発表内容(振り返りシートから一部抜粋)

  • 海の自然を守るためにゴミを道路などに捨ててはいけないから捨てないようにしたいと思った。
  • カメノテが貝じゃないことを知ってびっくりした。
  • 図鑑で調べた魚で、初めて見た魚があって、尾鷲の海にはたくさんいることがわかった。本物の魚を見てみたいと思った。
  • 尾鷲の海にもたくさんの魚がいることがわかったから、海に行くことになったら海辺の生物図鑑を持っていって魚を調べようと思った。
  • 定置網の仕組みを社会の勉強でしたことがあるけど、改めて覚えることが出来ました。
  • 磯海岸には僕が思っていた以上に色々な生き物がいた。だから来年、磯に行ったときに他の生き物を見つけたいと思った。
  • 自分の知らない貝や魚がクイズで出てきたので、見たことがあっても名前を知らない魚の名前を知りたいと思った。
  • 早田のブリまつりにたくさん人が来ることがわかった。自分もブリまつりに行きたいと思った。
  • 自分でも生物多様性を守れることが分かった。ゴミを減らそうと思いました。



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