NO団体名主な企画内容
27 尾鷲市立向井小学校(三重県) 「『僕らのあそび場づくり~海育・とと育・おわせ行く~』」
「山育・木育」、「川育・雨育」に続く第3弾。子どもたちが主体的に行う尾鷲の自然の特徴を生かした「あそび場づくり」を通して、リスクマネージメントや、自主性、自立性、郷土愛などを育み、自ら考え行動できる能力を身につける活動。

速報レポート5

実 施 日:令和3年10月13日(水)08:30~13:00
活 動 場所:三重県尾鷲市大字向井 黒の浜海岸
参 加 者:尾鷲市立向井小学校5・6年複式学級9人(5年生3人・6年生6人)
校長、担任、養護教諭
世 話 人:三重大学 大学院 生物資源学研究科 竹端彬良
サポーター:(有)ドーモ(森田)、小川耕太郎∞百合子社(藤井)、三重大学自然環境リテラシークラブ(坂本、松本)
      三重大学東紀州サテライト(山本)、尾鷲藪漕隊(内山他3名)、尾鷲ライフセービングクラブ(大谷)
      三重県紀北活性化局(桝屋他3名)、尾鷲市水産農林課(芝山・千種・髙村)   計17人
活動の概要

場所:黒の浜海岸〜弁財島
時間:午前8時30分~午前11時30分(総合的な学習の時間)
8:00-8:30 黒の浜海岸ベース設営、シーカヤック準備
8:30-8:40 8:30児童到着、準備
8:40-9:00 前回活動の振り返り、かるたの発表
9:00-9:30 準備運動とパドリングの陸上講習
9:30-10:00 出艇、黒の浜前の海でシーカヤックの操船基礎練習
10:00-10:40 弁財島に向け出発
11:40-11:10 弁財島前の浜に上陸、周辺で生物探し
11:10-11:40 復路出艇、黒の浜に帰還
11:40-12:30 お昼ご飯
12:30-13:00 活動の振り返り、終了

活動内容・目的

 これまでの全4回の活動で学んできた、海の生物と環境のつながりに関する知識を、シーカヤックに乗って五感で体感する学習プログラム。シーカヤックの上からは、淡水と海水が混ざる汽水域の揺らめき、海上の波・風が場所によって変わること、魚の飛び跳ねる様子、山と海がとても近いこと、遠くに雨雲が見えること(午後からは雨だった)、海から見える地元の風景…など、普段の生活では体験できない、多くの気づきにあふれている。自然の中に身を投じることは、そのリスクさえコントロールできれば、今後の人生に資する多くの利益があるということ、そして、それを学ぶのに尾鷲という地元が最高の環境に溢れていることを、児童に気付いてもらう。

活動の様子

これまでの全4回の活動の振り返り
 今回で最終回となる海育の活動。まず初めに、世話人の竹端さんがこれまでの活動で学んできた内容を児童と一緒に振り返った(図1)。
 第1回では、尾鷲は年間降水量が4000mmにも達する全国有数の多雨地帯であり、山や森に降る雨が、山や森の栄養塩を海まで運んでいるという説明があった。そして海に流れた栄養塩を餌として植物プランクトンが増え、生物多様性・生産性を高める要因となっていることの説明を受けた。また、以降の自然の中での活動のために必要な装備と道具の説明が行われた。
 第2回では、生物多様性・生産性にとって重要な植物プランクトンとそれを食べる動物プランクトンが実際に尾鷲の海にどれほどいるのか確認するため、プランクトン採集を行い、光学顕微鏡を使ってプランクトンの観察をした。また、植物プランクトンを餌としているアサリなどの貝類が浜に生息していることをアサリ採集を確認し、アサリが植物プランクトンを食べていることを実験で確認した。
 第3回では、尾鷲湾をシーカヤックでツーリングすることで出会える、島や岸壁、洞窟などの尾鷲の特徴的な地形、魚や鳥などの生き物を紹介した。
 第4回では、「オンライン磯採集」で、尾鷲の浅海域にどんな生き物が生息しているか、図鑑を使って調べる学習をした。生物多様性が環境によって支えられていることを体感しつつ、自主的な学習・野外活動手段としての「図鑑の使い方」を学んだ。また、地元の漁業協同組合で様々な活動を展開する湯浅光太氏に、尾鷲の漁業や漁獲される魚介類、さらには魚食文化に関してお話ししていただき、地元水産業のみならず食文化についても理解を深めた。

 「海育・とと育・おわせ行く」では、全5回の活動後に、児童は、その回で学んだことや感じたことを五十音のカルタにする宿題に取り組んでいる。
 本日の冒頭では、前回の活動の後に児童が作成したカルタの発表が行われた。
 児童は「=ひろい海 生産性と 多様性」など、前回の活動から感じたことを上手にカルタに表現していた(図2)。
 この一人一人の発表に対し、世話人の竹端さんが前回活動の振り返りを兼ねてコメントをしていった。


図1 これまでの活動の振り返り

図2 第4回の活動を終えて児童が作成したカルタ

ラジオ体操
 外での活動を始める前に、運動による怪我の防止のため、準備運動としてラジオ体操を行った(図3)。普段の学校行事などで練習しているため、児童はとても上手にこなしていた。この準備運動で、児童に、いよいよ活動が始まるんだというスイッチが入る。


図3 海を目の前にラジオ体操

 海へ入る前に、海の活動で自分の身を守る道具の一つ=浮くっしょん(ライフジャケット)を着用した(図4)。まずは自分たちで付け方を確認。前回着用時から時間が経っているので付け方を忘れてしまった児童もいたが、友達同士で確認しあい、早く付けられた子がまだ付けられていない子のフォローをして、全員が着用できた。
 黒の浜の海をバックに写真を撮る(図5)。児童らはやる気満々。


図4 浮くっしょんの着用

図5 黒の浜の海をバックに「出発!」

陸上でのパドリング講習
 海へ漕ぎ出す前に陸上でパドリングの練習を行った(図6)。指導役を務める竹端さんは、日本セーフーティカヌーイング協会が定めるシーカヤックのベーシック資格を保持しており、これまでに初めてシーカヤックに乗る人のサポートを行った経験がある。基本的な前に進む漕ぎ方の「前漕ぎ」、後ろに進む「後ろ漕ぎ」、横に曲がる「曲げ漕ぎ」、その場で方向を変える「回転」の指導を受ける。竹端さんが「左に曲がりたい時はどうやってこげばいいかな?」と児童に聞くと、児童は「右側を漕ぐ!」と答え、パドルを動かした。児童はみな理解が早く、陸上の講習は軽めに抑えて、あとは海上での練習とした。


図6 陸上でのパドリング講習

 自分が乗るカヤックを選んで出艇準備(図7)。今回は児童全員が一人乗りのシングル艇に挑戦する。波風を感じながら、自分の力で海を漕ぎ進む体験をしてほしいと、去年まで世話人をしていた森田渉さんより、シーカヤックを貸していただいての実施となっている。


図7 児童それぞれが乗るカヤックを選ぶ 

海上でのパドリング練習
海からの波が入らない矢の川の下流域でパドリングの練習を行った(図8)。最初は上手にカヤックをコントロールできずに川辺にぶつかる児童がいたが、後ろ漕ぎや回転を覚えると次第にコントロールできるようになっていく(図9)。


図8 海上でのパドリング練習指導の様子

図9 漕ぐのに慣れてきた様子の児童

 パドリンング練習を終えて、いよいよ海の方にツーリングへ出発(図10)。途中、タコメガネで海の中をのぞくも、魚は見えず、児童からは「何も見えない!」と声が上がった。


図10 川から海へ漕ぎ出し始める

 海の方へ漕ぎ進んでいくと、次第に波が立ち始めた。先ほどまで練習していた川と状況が変わり、児童からは「揺れる!」「落ちそう!」などの声が上がり、興奮した様子で表情には笑顔も見られた。幸い、極度に怖がる児童はおらず、児童のペースを見ながら目的地の弁財島(べざいじま)を目指し漕ぎ進めていく。

 途中、進行方向の左手に紀北町の便石山(びんしやま)と、尾鷲市の天狗倉山(てんぐらさん)が見えた(図11)。海から見る山々の景色は、普段住んでいる町から見る景色とはまた少し違う。竹端さんは横を漕ぐ児童に「左の方に山が見えるよね。」と声をかけ、児童が周りの景色に目を向けられるように促していた。尾鷲の海と山々の景色に、「綺麗!」と声を出している児童もいた。第3回で、ムーミンが寝ているように見えることから地元では「ムーミン島」と呼ばれている佐波留島(さばるじま)を紹介したが、今回、島の形を海から確認することができた(図12)。
 ツーリング途中、海上では休憩をとり、水分補給を促したり、児童の体調を確認した。児童全員がカヤックを横一列に繋げて「いかだ」を作り、休憩した。この形を取ることで、波が来てもカヤックが転覆しにくい。いかだの状態で写真撮影もした(図13)。


図11 海から見る便石山(左)と天狗倉山(右)

図12 海から見る佐波留島

図13 いかだを作り、写真撮影

 当初の予定では、弁財島を回って向かいの浜に上陸する予定だったが、波が高かったので断念。弁財島の前を通過するときに、第3回で紹介した水を飲んでいるゾウのように見える不思議な形の岩も見ることができた(図14)。


図14 弁財島の前を通過

 弁財島の前は島の両端から波が入ってきており、複雑に波立っていたが、ここまでのツーリングで慣れた児童らは難なく上陸することができた(図15)。


図15 目的の浜に上陸

生き物観察
浜での休憩後、波打ち際のブロック帯に生息する生き物の観察を行った。この日は小潮で、活動時間は満潮に近かったため、生き物探しは難航。竹端さんと児童ら、藪漕ぎ隊の方々の協力もあり、マツバガイやイシダタミといった貝類やヤドカリを見つけることができた。見つけた生き物を集めて興味津々で観察する児童たち(図16)。貝が動きだして顔を出すと、触覚が見え、「かわいい!」と声を上げる児童もいた。目の前に海がある向井の町に住む児童らだが、普段は海で遊ばないという子が多く、今回の体験は児童にとって貴重なものとなった。この体験を通して、すぐ近くにこのような生き物が生息していることを実感することができた。


図16 捕まえた生き物を興味津々で観察する児童ら

 帰りのツーリングコースは行きと同じで、来た道を戻ることになる。この日は北東の風が吹いており、帰りは追い風で漕ぎやすいこともあったが、児童らはすっかり慣れた様子で、無事に黒の浜に戻ることができた。

振り返り
すべての講義が終了し、今日学んだこと、気づいたことを振り返りシートに記入し、一人ひとり発表した。(図17)


図17 振り返りを発表する児童

発表内容(振り返りシートから一部抜粋

  • 最初カヤックに乗った時はちょっと怖かったけど、乗るうちにどんどん楽しくなった。魚が見れなかったので今度カヤックに乗る時は魚を見たいと思った。
  • 貝を見つけることができて楽しかったです。
  • シーカヤックが想像していたより難しく、バランスの取り方も初めは大変だったが後から上手くなった。
  • シーカヤックを乗っているときにバランスを崩して落ちてしまったから次乗る時があったら落ちないようにしたい。
  • ヤドカリやマツバガイを見れてよかった。貝が可愛かった。カヤックを漕ぐのが大変だったけど楽しかった。
  • シーカヤックに一回乗ったことがあったけど、海と川は全然違うことがわかった。
  • シーカヤックに乗っているときに、桟橋のところでシーカヤックが引っかかってひっくり返ってしまって怖かったので、次乗った時は落ちないようにしたいです。

竹端さんからのメッセージ

 最後に、これまでの活動を終えて、竹端さんが子どもたちへメッセージを贈った。

以下、メッセージ。
「この授業を受けていない友達やお父さんお母さんにこれまでの活動で学んだことや、感じたことを自分の言葉で伝えてあげてください。三重大の先生方が教える専門性と、自然体験を含んだ特別な授業を経験できたと思います。聞けていない友達に伝えてほしいし、お母さんお父さんはみんなが学んだことを話してくれると喜んでくれると思います。そして何より、僕がこうしてみんなの前に立ってこれまでの授業を行ってきたのは、僕が尾鷲にきたときに感じた尾鷲の海、山、川の自然の美しさや生物種の豊かさをもっと多くの人に知ってほしいと思ったからです。自分の言葉で今回知った尾鷲の素晴らしさを多くの人に伝えてほしいと思います。」
「また、今回の活動はこれで終わりですが、今回をスタートとして、もっと自然の中で遊んでください。これまでの自然の中での活動で、みんなそれぞれ様々な発見があったと思います。しかしそれはほんの一部で、今回だけでは発見できていない景色、生き物が尾鷲にはまだたくさんあるはずです。これからもっと自然の中で遊ぶことでそれらを知っていってほしいと思います。」


図18 児童らにメッセージを送る竹端さん

おわりに

 今回のトムソーヤスクール企画「僕らのあそび場づくり~海育・とと育・おわせ行く~」では、本当にたくさんの皆さんに支えられ、子どもたちは、これ以上ない経験を積むことができました。
 向井小学校は、尾鷲市の中でも小規模で、向井地区、大曽根浦地区の少子高齢化が進む中にも地域色の大変濃い、地域と共に学ぶ学校です。
 今回の海育・とと育では、その地域を良く知る私たち教員や、親、大人たちも知らなかった「地元の自然」を、子どもたちが自ら危険を調べ、準備し、自分たちの力で体験できたことは、本当に大きな、大きな自信と喜びにつながったと、プログラムをやり終えた子どもたちの成長した顔を見て確信しました。
 今回の取り組みは、コロナ禍による緊急事態宣言のもとでの開催となり、二度、フィールドに出られず、教室からオンラインでの学びとなりました。
 しかし、世話人の皆さんの本当に工夫されたプログラムによって、子どもたちは、辞書を片手に現場の画像や動画から研究調査をするなど、より集中して学ぶことができ、対話型講義のメリットが最大限に引き出されたものでした。
 これからの時代を担う子どもたちにとって、ICTの進歩は切っても切り離せないものです。今回の取り組みでは、コロナ禍のもと、こうしたICT活用を駆使しながらも、より自然の中に身を置くことができる素晴らしい学びの時間を与えていただきました。
 このような機会を提供していただいた安藤スポーツ・食文化振興財団の皆さまをはじめ、かかわっていただいたすべての皆さまに感謝申し上げ、終わりの報告とさせていただきます。
 ありがとうございました。



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速報レポート4 コロナ禍での緊急事態宣言発令下におけるオンライン学習
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