第0回 自然楽習会 ~都心部で、里山で、生きものを捕ってみよう!!~日時 2010年07月08日(木)午後2時25分~3時30分
活動の目的
場所 大阪府・茨木市立天王小学校 参加者 小学4~6年生の自然観察クラブ員25人・学校の先生3人 講師 小村一也(こむら・かずや) 2010年6月に小学校より依頼があり、学内で自然楽習会を実施。身近な川の生物を紹介し、夏休みに観察しやすいように促しました。8月22日(日)に開催する「自然楽習会 in 大正川」には、クラブ顧問の先生が引率し、クラブ員が参加する予定なので、今回は現場に入る前の事前楽習会となりました。 小学校の正門前を流れる大正川は、子どもたちの遊び場のひとつ。春には遡上してきたコイを抱き捕りしたり、夏には小魚やカメ捕りを楽しんでいる姿を見かけます。2面コンクリート護岸で、夏場はCOD8以上と決して美しい川ではありませんが、生物層は豊かです。大阪府レッドデータブックに掲載されている魚種も棲んでいます。 小学校内での講義なので、教員の方々3人に子どもたちを見守っていただきました。 子どもたちが日ごろ親しんでいる大正川の成り立ち、生態系・生物の多様性を「大正川・トリビアの泉」的に質疑応答形式で講義しました。 1 歴史と成り立ち・・・河川名称の説明/地理的な知識 ・地元で減少している生物、絶滅した生物について熱心な質問がありました。 ・普段のクラブ活動ではなかなか教えられないこと、指導者も気づいていない事実を聞き、今後の指導内容に取り入れていきたい。 生物観察や学習の場では、捕まえる・見るが主体になりがちだが、自然環境や生態系を広範囲のエリアで考えたり学んだりすることも、子どもたちには大切な学習であることを考えさせられた。 1 2 3 簡単な水質検査に、COD検査があります。川の水を入れ物に入れ、薬剤チューブで吸い取るだけです。薬剤が水中の汚れと結合して、数分たつと水の色が変化するので、水質を色で判断できます。きれいな水の代表として、水道水と比べてみるといいでしょう。 1 両生類と爬虫類の発生学的な違い ■小村先生 ※結果は、明確に答えられな子どもがほとんど 単純に両生類は、子ども時代はエラ呼吸です。カエルの子どもと同じように、イモリやサンショウウオにも、オタマジャクシ(幼生)時代があって、水中でエラ呼吸をしています。そして、手足が生えて(亜生体)になってはじめて、空気中で肺呼吸するようになります。 ※ホワイトボートに略図を描きながら説明 両生類は水中で卵を生むので、水中に適した寒天質の覆いのある卵です。それに対して、爬虫類は空気中で生まれるから、乾燥した所で卵が乾かないように殻で守られています。また、後に進化していく、鳥類の卵の殻はより丈夫になっています。 ※子どもたちは、言葉の意味として両生類の概念がよく解ったよう ■子どもA ■小村先生 ■子どもB ■小村先生 ※男の子たちは興味津々。先生方も「へーぇ~」と感嘆 ■小村先生 生物の骨格は、それぞれの生活や習性に適した構造と機能をもっています。そして、普通、脊椎動物は「背骨=脊柱」を構成している脊椎の数が決まっています。しなやかに泳ぐ軟骨魚類のサメなら400。獲物を広い大空で探す猛禽類は35。私たち人間は、34あります。背骨のある生き物の中で、最も脊椎数が少ないのは、実はカエルなのです。 カエルの脊椎数は、たったの9。こんなに少なければ、背を丸めたり、柔軟体操のようにクネクネと胴体を動かすことができません。では、なぜカエルはこのような不便な背骨になったのでしょう? 解る人はいませんか。 ※子どもたちは首をかしげるばかり その理由は・・・カエルたちはジャンプするために、脊椎の数を減らす方向へと進化したのです。敵から逃れるために、勢いよくジャンプするカエルたち。実はジャンプする時に、とても大きな重力負荷が背骨にかかるのです。もし人間がカエルと同じくらいジャンプしたならば、たちまち背骨を痛めてしまい、致命傷になってしまいます。カエルたちは、脊椎の数を減らすことで、とても頑丈な背骨を獲得し、あのすばらしい跳躍力を手に入れたのですね。 ※高学年の子どもたちは熱心にメモをとる 2 回遊魚と大正川の連続性の話 ■小村先生 ■子どもC ■子どもD ■小村先生 たとえば、ボラやマハゼ・ウキゴリなどです。これらの種は、春に小魚たちが大阪湾に近い河口あたりからゆっくりと遡上し、6月頃に皆さんの学校付近で落ち着き、生活をはじめます。そして11月頃に充分に育ち、大人になって再び河口へ帰っていきます。そして、河口で産卵され、生まれた小魚たちが繰り返し、毎年、遡上するのです。 大阪湾から神崎川、安威川、そして大正川へと続く川の道。大きな堰や障害物もなく、また、この地域は海抜8m程度と非常に緩やかな平野なので、魚たちが自然に行き来できるのです。 そしてもう一つ。「大潮」と言って、潮の満ち引きが最も大きくなる「満潮」の時に、大正川が逆流することを皆さんは知っていますか? ■子どもたち ■小村先生 皆さん、この大正川がいかに緩やかに海とつながり、自然な流れであるか、わかりましたね。魚たちにとって、住み心地の良い川であることを思わせますね。 ※子どもたち・先生たちが大きくうなづく 3 昆虫たちの進化と面白い話 ■小村先生 ※先生方にウケる 赤とんぼと言われるアカネトンボたちは、真夏の暑い時期、ここよりもずっと涼しい山間部へ避暑旅行に行っているのです。大正川で生まれたアカネトンボたちは、9月から10月の初旬まで、茨木市の里山で涼しく暮らします。そして、充分に子孫を残せるまで成長し、初夏の頃より赤く染まった姿で大正川に戻ってくるのです。 ※子どもたちは「ヘェ~っ」と感心 では、ついでにトンボも含めた昆虫と、それに近い仲間の話をしましょう。 そう、昆虫は脚が3対6本。胴体が頭と胸と腹に分かれています。でもクモは? ※子どもたちは「グェ~っ」と驚く ムカデもダンゴムシも、昆虫ではありませんよね。確かに形はよく似ていて、虫っぽい生き物は数多くいます。昆虫以外の外骨格生物、つまりからだの中に骨を持たずに、筋肉や神経・内蔵だけで構成されていて、骨の代わりに外側に頑丈な鎧を着ている生き物たちの歴史を少しだけお話しましょう。 今から約3億5千万年から2億9千万年前の石炭紀、沼沢林(しょうたくりん)と言われる植物層がいっぱいだった頃、二酸化炭素が大量に吸収され、酸素がたくさん供給されるようになった時代です。 現在の酸素濃度は21%くらいなのですが、この時は最高で約35%もあったと言われています。このことで、巨大な生き物が多く出現したと考えられています。なぜなら、昆虫も含め外骨格生物がどこまで大きくなるかは、呼吸可能な酸素の量で決まると考えられていて、一度に吸収できる酸素が多ければ、それだけ大きく成長できるからです。 石炭紀時代のもので、約2mに成長した猛毒のムカデ類やサソリの化石が、見つかっています。中でもスゴいのは、タカほどの大きさまで成長していたトンボ「メガニウラ」です。3億2000万年前に死んだ、このトンボの化石が見つかっていますが、羽を広げた大きさが75㎝もあったのです。それまで、外骨格生物は海中で進化し続けていましたが、大気中の酸素をエネルギーに、浮力のない地上で重力に負けない丈夫なカラダを手に入れて、繁栄していったのがこの時代です。 でも、その進化の歴史には謎も多いのです。昆虫がなぜ空を飛ぶようになったかは、今もよく解っていません。昆虫の羽は、太陽光を集めて体を温めるなど、体温調節器官が発達したものだという説や、求愛や示威行動に利用されていた色鮮やかな器官から進化したという説、と実に様々です。 鳥の翼は進化の過程がほぼ解明されていますが、こんなに身近で普通に飛んでいる昆虫の羽については、まだ解らないことだらけです。もし、今も酸素濃度が石炭紀の頃と同じなら、巨大カブトムやオオワシのようなアゲハチョウが飛び回っていたかも・・・。 ※男子たちは、巨大カブトムシを想像して微笑む 4 小さな水生生物ア・ラ・カ・ル・ト ■小村先生 昆虫類は約300種類以上が目で見て確認できますが、それぞれが小さかったり、区別がつきにくいものが多いので、この地区で減少しているミズカマキリの仲間を紹介します。ミズカマキリやタイコウチ、コオイムシは、以前多く生息していましたが、今では激減しています。川の中だけでなく、辺りに棲める場所がなくなってきたからでしょうね。 ■子どもE ■小村先生 ※子どもたちは答えられず 答えはカメムシの種類です。さらに言えばセミの親戚ですよ。顔をよく見てください。どれもストローのような口ですよね。ミズカマキリたちは生物の体液を、カメムシやセミは樹木や草花の汁を吸っているんですよ。 ※子ども・先生たちが揃って「へぇ~っ!!」 昆虫の話はキリがないので、その他の水生生物の種類を教えましょう。 ■理科の先生 ■小村先生 ※全員「へぇ~っ!!!!!」でした。 5 大正川の注意と危険生物 ■小村先生 大正川は大雨の時に一気に水量が増えて、流量・流速が増大する危険な一面があります。周囲の小さな水路が大雨でいっぱいになると、自動的に水門が解放されて大量の水が放水され、大正川に降り注いだ雨と合わさって、ほんの数分で沈水敷き、つまり遊歩道より水位が上がります。 だから皆さん、大雨の後や夕立、いまはゲリラ豪雨とも言いますが、その後すぐに川遊びをするのは危険です。また、どんよりとした雲が近づいてきたり、急に吹く風が強く冷たくなったときは、素早く陸に上がって川遊びを中止してくださいね。もし、流されたら・・・数日後には大阪湾に浮かんでいることもあるんですよ。 ※子どもたちは「怖い~っ!!」 さて、川の水の危険とともに、危険な生き物の話をしましょう。簡単に注意事項を説明するので聞いてください。大正川に生息している水生生物は、皆さんより強い生き物はいませんが、中には注意しなければいけない生物もいます。 まず、スッポン。これは、イシガメやクサガメと同じく大正川の在来種です。スッポンは自ら攻撃したり、噛み付いたりしない臆病な生き物ですが、皆さんが面白がっていじめたり、不用意に捕まえようとすると、長い首を伸ばして噛み付いてきます。スッポンは怖くて逃げたくて噛み付くのですが、その噛む力はとても強く、30㎝を超える大きな個体に噛まれると、大ケガをします。 また、最近、大正川の下流で違法に放流、多分捨てられたのでしょうけど、カミツキガメが発見されています。もし、クサガメやイシガメ等の見慣れたカメ以外の変わったカメを見つけたら、絶対に近づかないでください。ガメラのような大きなカメを見た時は、大人の人、とくに警察官に連絡すると良いでしょう。 小さいうちはミドリガメと言う名前で呼ばれいる、ミシシッピアカミミガメも多く生息しています。このカメは噛む習性があるので、スッポン同様に気をつけた方がいいでしょう。カメの正しい捕まえ方等は、8月の自然楽習会で解説します。 あと、夏の終わりから秋にかけて飛び回るスズメバチは、次回の自然楽習会の頃が繁殖期となり、とても気が荒くなります。このハチに対処方法も次回に説明します。 ついでに、あまり皆さんは好んで触らないでしょうけど、ガの幼虫はむやみに触れないでください。中には強い毒のあるチャドクガの幼虫がいて、その針が刺さるととても痛いし、しばらく腫れが引きません。この成虫の蛾は羽の鱗粉が毒ですので、目に入ったりしたら大変です。このことも、また今度に解説します。 6 大正川の外来種について ■小村先生 順を追って説明しますとまず、カメの場合、北アメリカのフロリダ周辺が原産地のカメが多く、ミシシッピアカミミガメ・フロリダニシキガメ・リバークーター等が混在しています。天敵のいない日本のカメと違って、繁殖力がとても強い種です。これらのカメは、ミシシッピー等の湿地である天敵との生存競争で、繁殖力を高めました。その天敵が何か知っていますか? ■子どもF ■小村先生 ※ダイヤモンドバックテラピンの生体を見せる さて、皆さん、このカメを見たことがありますか? 皆さん、生き物は自ら好き好んで、本来は住まなかった場所に住んでいるのではありません。私たち一人一人が命の大切さ、生態系の大切さを考え、もしペットとして飼うならば、その命に責任をもってあげる心が大切ですよね。 ここで、カメ以外のお話もしておきましょう。 あと、大正川でよく捕れるメダカのような魚。これはカダヤシといって、やはり外来種です。この魚は一見メダカに似ているので、注意して観察してください。海の魚・ダツの親戚であるメダカは、ダツやサンマと同じく背ビレが体のかなり後方にありますが、カダヤシの背ビレはほぼ中央にあります。また、カダヤシのオスは、針の様なとがった尻ビレなので一目で分かります。 さらにメダカのメスは卵を生みますが、カダヤシはグッピーと同じように卵胎生で、メスのお腹からいきなり小魚の姿で出て来ます。卵が他の魚に食べられる心配がないので、とても繁殖力・生存力が高い。生息域が重なるメダカは、あっという間に駆逐されてしまうんです。 あと、大正川で普通に見られるアメリカザリガニ・ウシガエルは、もちろん外来種。ブタクサハムシなど、小さな外来昆虫もいます。アサザやホテイアオイ、アレチウリやミズヒマワリは、どこからか誰かが移入した外来植物です。このように大正川も、今では外来種の宝庫(?)になってしまいました。今のところ、幸いにもアライグマやヌートリア、セアカゴケグモの報告はありませんが、油断禁物ですよね。 ※子どもたちは、この問題を良く知っているのか大きくうなづいてくれた 7 特定外来種について ■小村先生 先ほど解説しました、カミツキガメ、ウシガエル、オオクチバス・ブルーギル・カダヤシ、アレチウリ・ミズヒマワリは、国が特定外来種として指定している動植物です。これらの生き物はもし見つけても、持って帰ったり、飼育したりしてはいけません。また、よそに放したりすることはもちろん、捕まえたものを再び元に返してやることも禁じられています。 理由は先ほども話しましたが、その繁殖力の強さから日本の在来種を追いやって生態系バランスを破壊するからなのです。では、飼育、移動、リリースも出来なければ、いったいどうすればよいのでしょう? ■子どもG ■子どもH ■小村先生 ※子どもたちはショックを受ける 大変残酷なお話ですが、それが日本の法律なのです。特定外来種は、特別な許可を持っている人や施設以外では、捕まえた時点で処分しなければならないのです。 本当に罪深いのは、誰でしょうか? 今日は色々とお話しましたが、大正川についての話はまだまだ、たくさんの驚きや面白トピックスがあります。今度は8月の自然楽習会で、実際の生き物に触れながら色々な話の続きをしましょう。 第0回 自然楽習会 ~都心部で、里山で、生きものを捕ってみよう!!~ 第1回 自然楽習会 in 藤ノ木川 ~比叡山坂本で、生きものを捕ってみよう!!~ 第2回 自然楽習会 in 大川 ~都会の川を散歩しながら、虫を探してみよう!!~ 第3回 自然楽習会 in 大正川 〜茨木市の街中で、生きものを捕ってみよう!!〜 第4回 自然楽習会 in 正修寺 〜茨木の里山で、虫を探してみよう!!〜 第5回 自然楽習会 in 北川 〜福井県の山で、アユを捕ってみよう!!〜 第6回 自然楽習会 in 藻川 〜猪名川の支流・藻川で、生きものを捕ってみよう!!〜 第7回 自然楽習会 in 茨木市 〜茨木の生きものたちを、描いてみよう!!〜 プログラム検索に戻る |